息子の卒業式

ちょっと前のことだけど、小6の長男の卒業式があった。

俺はナントカ式がもれなく苦手で、

結婚式、葬式、入社式、

式って名がつくものはみんな大嫌いなんだ。

もちろん卒業式も苦手!

なんで式が嫌いかっていうとね、

なんかえらそうだから!!

それでも、俺が行ったらきっと息子が喜ぶだろうと思って、

卒業式に行ってみたんだよ、妻と、あと5歳の三男と一緒に!

玄関で、受付の人から息子の手紙を受け取った。

あー、やっぱり最近はどこの学校でもこういうことするんだなーって思った。

式が行われる体育館に行ったら、けっこう空いてた。

人がわんさかいて、ぎゅうぎゅう詰めだったら嫌だなって思ってたけど、

ぜんぜん大丈夫だった。

俺と妻と5歳のボウズの3人で、まわりに誰もいないイスを選んで座ったら、

わざわざその真ん前におばさんとばーさんが座った。

なんでガラガラなのに、わざわざ俺の前に座るんだよ…

そう思って、妻に「あっち行こう」って言って場所を変えた。

そしたら直後にそのババア達がついてきて、

俺の真横にすわった!!!げっそりげっそりげっそり

キレそうになったけど、でも場所をわきまえて、

おとなしくこめかみをピクピクさせていたら、

妻が「場所代わってあげるよ」と言って、場所を代わってくれた。

俺ははじっこ。

妻はババアのとなり。

俺が不機嫌になったことを敏感に察知して、対応してくれたんだ。

十数年も一緒にいると、俺のことがわかるんだな。

普段は気が利かないところもあるけど、やっぱすげーなーって思った。

式が始まるまでまだ30分以上あってヒマなんで、

息子の手紙を読んでみることにした。

手紙の内容は小学生らしいもので、

それを読んで感動とかはしなかった。

手塩にかけて、苦労しながら子供を育ててきた人は、

きっとこんなとき、感慨深くなるんだろう。

涙が出てくるのだろう。

俺は子供を育てていないし、何の苦労もしていない。

子供は勝手に育った。

俺は何もしていない。

俺はただ、自分のために生きてきただけだ。

そのついでに、気が向いたときだけ、家族と遊んできた。

ただ、それだけ。

家族のためになにも頑張っていない俺は、

こういう場所で感動することはないだろうって思った。

今は少子化で、息子のクラスも2クラスしかなかった。

俺が子供のときは4クラスあったんだけどな。

今は半分なんだね。

ようやく式が始まり、

ひとりひとり名前が読み上げられる。

そのたびに、卒業生の元気な「はい」の声がする。

「ほぁい!!!」

ああ、ダメだ、こいつ気負いすぎてる。

小学生のくせに紋付き袴なんか着やがって。

ナマイキだ、親の顔が見たい。

「ハイッ!!!」

どっから声出してんだよ。

きもちわりーなー。

普段そんな声出さないだろうが。

「ハーイッ!!」

ああ、こいつもだよ。

先生から「元気に大きな声で返事しましょう」って指導されているのはわかるよ。

わかるけど、もっとこう、あのさ…、

そんな中、俺の息子の番が来た。

石野冬樹!!(仮名)

「はいっ」

くぅ〜〜〜〜〜〜っ、

これだよ、これ!!!!!

小学生はこれだろうが!!!!!!!

大きすぎず、小さすぎない。

絶妙の返事だった。

先生に叱られるほどの声の小ささでもなく、

俺がドン引きするほどの声の大きさでもない。

ちょうどいい。

俺は昔から、小学校の指導に疑問を覚えている。

卒業式で名前を呼ばれたら、とにかく元気に返事をしましょう。

これで最後なんだから。

小学校生活最後の晴れ舞台なんだから。

みんな見に来てくれているんだから。

見に来てくれた人に、元気で立派な姿を見てもらいましょう。

そういう学校の指導が垣間見られる卒業式の風景に、うんざりしている。

それを真に受けて、元気に返事をする子供がいる。

立派に思ってもらえるように、立派な返事をする子供がいる。

俺はそういうのを見ると、悲しくなる。

「ああ、この子は一生懸命、大人に気に入ってもらおうとしているんだな」

「この子は今、精一杯背伸びをしているんだな」

「この子は今、立派な自分を演じているんだな」

そう思ってしまうんだ。

この子たちはわけもわからず、先生の言うことに従っている。

そういう姿を見て、俺は悲しくなる。

でも、俺の息子は違った。

自分を大きく見せる返事ではない、

でも、先生の顔をつぶすほど、小さな返事でもない、

無理をしていない、等身大の、ありのままの冬樹の返事。

「はいっ」

あいつらしい返事。

自然体の返事。

子供らしい返事。

俺はそれを聞いて、すごくうれしくなった。

ぜんぜん子育て頑張ってないけど、

それでもウチの子をみんなに誇りたくなった。

「ウチの子の返事、ちょうどよかったでしょ〜?!!」

もしも隣にババアがいたら、そう声をかけていてもおかしくなかった。

それくらい、うれしかった。

卒業式に行ってよかった。

たまにはガラでもないことも、してみるもんだなって思った。

冬樹の返事を聞き終わったくらいで、

一緒に来ていた5歳のボウズがぐずりだした。

「ねー、まだおわらないの?つかれた」

よーし、おまえもいい子だな!!

とおちゃんがもう卒業式に飽きて帰りたいのを見越して、

そんなふうにぐずってくれるんだな!!

俺は「闇也(もちろん仮名)がぐずってかわいそう」という理由を作って、

一足先に闇也と家に帰ることにした。

みんなまだまだここにいて、ちゃんとしてなきゃいなきゃいけないのに、

俺と闇也だけ、一足先にオサラバできる!!

体育館を出る俺の足取りは軽かった。

おまえは空気読めるな〜!

いいやつだなー!!

自転車が停めてあるグラウンドで、俺はぐずった5歳の闇也を褒めた。

家に帰った俺は、普段着なれないフォーマルな服を脱ぎ捨てた。

俺にこんな服を着せるなんて、犬に服を着せるのと一緒だよ。

もう二度ときねーからな!バーカ!!

とてもいい卒業式だった。

冬樹、こんなとおちゃんなのに、

立派に成長してくれててありがとう。

俺に似ないでくれてありがとう。

俺の子供として生まれてきてくれてありがとう。

とおちゃんは、おまえが誇らしい。

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